2011年6月12日日曜日

Suck it snd See/ Arctic Monkeys

Arctic Monkeys
Suck It and See


7.5

Marc Hogan, June 9, 2011




無愛想な10代のバンドがオンラインで音楽を無料配信して音楽業界の決まったセールス方法の高をくくり、CDの売り上げがどんどん減少している時代にも関わらず、レコードをなんとか売り上げている。これは最近では良くある話だが、Arctic Monkeysの以前の早熟なアルバムWhatever People Say I Am, That's What I'm NotはUK史上初のデビューアルバム売り上げ最高速度を記録した。2006年はまだ"MySpace "出身のバンドがまだもてはやされていた頃だったにも関わらず。現在、ニュースコーポレーションがMySpace、Bandcamp、Tumblerなどの音楽関係の記事が多いソーシャルネットワークサービスを売り出そうとしているが、シェフィールド出身のこのバンドの最新作は、もっと伝統的なアプローチで勝負している。

Suck It and SeeはArctic Monkeysの四枚目の作品で、今までで一番評価できる作品だ。しかし、ブログで話題にする代物ではない。Facebookのステータスを更新する時や、完璧なつぶやきを考えている時に聞いてしまうと、きっと何か重要な物を逃している気分になるだろう。まぁ、何をしているにしろ、それは起こりえるだろうけど。例えばタイトルを見てみると、間違いなくこれは部分的にアメリカの観客に向けた、意図された挑発であろうことがわかる。イギリス人はこのタイトルを"Give it a try"(試してみろよ)と間違って理解するだろう※。しかし、このレコードは永遠に聞いていられるような細かいディテールに溢れ、怠惰と、傲慢な所はフロントマンAlex Turnerの良く練られた歌詞とバンドの熟練した演奏に表れている。この音楽性はマッチョなグラムロックスタイルと、キラキラしたインディーポップのバラード曲まで及んでいる。西部劇や退屈な天気についての観察の裏には、思想に富んだロマンスや大人になる事へのテーマが隠れている。

※Suck it and Seeは直訳すると「舐めてみればわかる」というエロティックな意味合いを感じられます。AlexはタイトルについてNY TIMES紙のインタビューで"Dick Van Dyke"風の古い英国主義っぽさを出したかったとコメントしています。アメリカ人への挑発、というのはその理由でしょう。

「きっと五年以内にはみんなが「Arctic Monkeysってなに?」って言ってるさ。」と五年前にTurnerは言った。それに適して、Suck It and Seeはバンドにとって再出発的な作品となった。2007年の傑作Favourite Worst nightmareはSimian Mobile DiscoのJames FordがプロデュースしたArcticsの初めてのアルバムで、感情や音のパレットを埋める事に成功し、音楽的にも強化した。2009年のHumbugはQueens Of the Stone AgeのJosh Hommeが参加し、予想していた通り、たくましく、くつろいだ作品となった。他には、Turnerのシャウトを聞かせた声を甘い歌声に成熟させた2008年のサイドプロジェクトThe Last Shadow Puppetsがあり、Richard Ayoade監督の映画、Submarineではサウンドトラックを担当しアコースティック調を聞かせた。新しいレコードはFordプロデュースで、Hommeが"All My Own Stunts”という曲でバックボーカルとして
マッチョな声で参加している。このアルバムはそれぞれの経験を活かし、全てをバンドの次のレベルへ昇華させている。自信に満ち、メロディーに優れ、今まで以上に巧妙に演奏されている。

TurnerはNick Cave, The Byrds, Nick Lowe, David Bowie, Leonard Cohenに加えカントリーの大御所Johnny Cash, George JonesとPasty Clineが今作の歌詞に影響を与えたと答えている。彼が一番はっきりしている時(それでもかなり曖昧なんだが)、Suck It and Seeに侘しいユーモアのセンスがあり、彼が冗談をついていないと証明している。それがバンドメンバーの趣向にあるBlack Sabbathのリズム感覚やStooges風の攻撃的な演奏によって曝け出されている。音楽的に、ドラマーのMatt Heldersがバンドの「まあまあな秘密兵器」として残っていて、ネガティブな精神状態や嘘っぽい純粋なワルツを表現している。Sean Combsは彼を何度もDiddy Dirty Moneyに招待しているし※。

※P.Diddyのグループ。ドラムとして参加している。

引用したくなる歌詞が何度も出てくるし、バックの演奏はかなり洗練されていて一回聞いただけでは気づかないだろう。"Don't Sit Down 'Cause I've Moved Your Chair"はタイトルに値した(「君の場所はないからそこに居座るなよ」)威張り散らした感じのブーギーで、そこに居座る事よりも安全な、危険なアイディアを排除している(「マカレナを悪魔の巣窟で踊る」みたいな、いつもの感じの)。勇敢な叙情詩風の“Reckless Serenade"には「上半身裸のモデルが手旗信号を送っている/歩きながら旗を振り、無視されている」という歌詞から始まる。他に、Turnerは彼の胸中をしっかり隠しているために、歌詞の文学的な意味を解明する事は多分不可能だろう。しかし、彼の破綻した歌詞のイメージ像はまだかなり魅力的だ。アルバムの楽曲は多くの場合さらにヘヴィーで、ぼやけている。"Black Treacle"は西部劇「明日に向かって撃て」のようで、「夜の空にへそピアス」といった景色を喚起させる(Turnerはかなり慎重に言葉選んでいると思わないか?「さあ暗くなってきた、空はベトベトしている/タールよりは黒い糖蜜のように見えるな」、という感じなのだ)。"The Hellcat Spangled Shalalala"は記憶に残る印象的なメロを、そう"Sha-la-la-la"とコーラスする。"She's Thunderstorms"は荒々しく、魅惑的な女性をテーマに同じように荒々しく演奏している。しかし、ぎざぎざの複雑な"Library Pictures"だけが興味を惹く事に失敗している。

メインストリームを"I Bet You Look Good on the Dancefloor"という曲で突破したバンドにしては、Arctic Monkeysはいつも静かな優しい瞬間の表現に優れてきた。Suck It and Seeにもその瞬間がある。心を痛ませる"Love is a Laserquest"では失恋の感情を過去のスロウな曲"Do Me a Favour", "Cornerstone", "A Certain Romance"と同じように容赦せず叩き付ける。かなり違ったバンド、Fleet Foxesの"Helplessness Blues”に一貫した同じテーマがこのアルバムにも流れているのだ。「君が昔そう思ってた頃よりまだ若いって感じてるかい?」と最終曲"That's Where You're Wrong"(そこが間違ってる)で、LCD Sound Systermの"All My Friends"でのどんどん盛り上がって行く2コードのフォーマットを辿り、過ぎいく日々への心配を深めていく:「自分の事のように心配しないでくれ、ハニー/年をとったのは君だけじゃないんだよ」ブログでは見かけない何かがここにある。あまりにも早く成長し、素晴らしく年をとったバンドが。

原文:Suck It and See/Arctic Monkeys, Pitchfork





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