2011年5月31日火曜日

Nat Baldwin/ People Changes




















Nat Baldwin/People Changes

7.9


Nat Baldwinの経歴には感銘を受ける。彼はフリージャズの名士Anthony Braxtonに師事し、EaglesのIn Ear ParkやVampire WeekendのContraに参加、そしてDirty Projectorsのベーシストとして今活躍している。9年の間、彼はExtra Lifeとのコラボレーションを含め、何枚かバラエティに富んだソロアルバムを発表してきた。五枚目の作品、People Changesは期待を裏切らないものになった。


Baldwinはメイン州の遠くは慣れた別荘に赴き、レコーディングを行った。このスタイルでの録音は以前にも聞いた事があるかもしれない。そう、Bon Iverのデビュー作のように、このアルバムは素晴らしいアンビエンス感に溢れている。2008年発表したMost Valuable Playerと違って、People ChangesはBaldwin一人の力で大きく引っ張っている作品だ。何人か友達の助けを借りながら、彼の声とベースだけで構成されている。BaldwinはバンドメイトDirty ProjectorsのDave Longstrethと同じ滑るようなスタイルの、可愛らしいメリスマ※を使って歌う。Longstrethの声はよくグロテスクな形に砕け散ることがあるのに対し、Baldwinはちゃんと形を保っている。これによって、People Changesのスペアアレンジメントへの素晴らしい併置が巧く成されている。土臭い彼のダブルベースの音が、歌声を重しやトランポリンとしてがっちり、伸びよく支えている。彼の声は楽器のように、ひらめいたり襲いかかってきたりリスナーのツボを押してくる。


オープニングナンバー"A Little Lost"はArthur Russelのカバーで、元の作曲家がチェロを用いて演奏したもので、オリジナル、カバー共に高いキーで始まる。Baldwinはよく弦を不協和音を作るためにかき鳴らすが、ここではまるでベッドカバーのように柔らかい表現に徹している。これがBaldwinの歌唱と優しい詩の展開にうまくフィットしている。Russelのオリジナルは伝統的なポップの定型の中で機能していたが、Baldwinはコーラスとヴァースを用いて曲を装飾する傾向にある。これによって開放的な感覚を全てに与え、最終曲の"Let My Spirit Rise"でもそれは顕著である。紙に「君のために、僕に一回にキスしなよ」みたいな歌詞が書かれていると自己陶酔したシンガーソングライターみたいな感じに見えるかもしれない。しかし、アレンジメントや構造の足りなさに関わらず、これはどこから見てもポップソングだ。素晴らしい曲の手触りの連なりがもっと色々なものを楽しみに取っておいてくれるのだ。


このような要素はPeople Changesが広がりを見せることでさらに面白くなっていく。木管楽器が鳴る、綱渡りのようなドラマ仕立ての"Weights"ではBaldwinはギターやサックスの盛り上がりを入れ、静かな”Lifted"ではスネアを挿入した。短い"What Is There"はベースのうなりやげっぷみたいな要素を混ぜたベースのインストナンバーである。彼が喉を使って歌っていたり、弓でベースを歌わせていても、そこには自由の刺激的な感覚がいつもある。

ーDavid Bevan, May 26, 2011


原文:Pitchfork/Nat Baldwin, People Changes


※メリスマ(melissma)というのは日本で言う「こぶし」のようなもので、メリスマでは高い高音を連続的に使う。






People Changes

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