2011年5月13日金曜日

The Antlers/ Burst Apart






















Burst Apart

8.2
BEST NEW MUSIC


ブルックリンのインディー界では幾多のバンドがそれぞれどのバンドよりもかっこよくなってやろうと頑張っているような感じがあるんだが、ありがたいことに誰もPete Silbermanにはその風潮を教えてないみたいだ。2009年、灼熱の夏にThe Antlersのフロントマンが三枚目のレコードHospiceと共にベッドルームから現れた。そのアルバムには彼の流行遅れなずたずたに切り刻まれたようなコーラスと、コンセプトアルバムへの野心に包まれていて、まるで心の核兵器発射ボタンを押してしまったかのような危機的で感情的な題材を取り扱った。たとえば、人工中絶、癌、死とかそういう楽しい事をね。今では三人組になり、The Antlersは---よく、難しいとされる次のアルバム制作におこる一般的な前兆だが---Burst Apartでエレクトロ音楽の影響を受けた事を宣言している。しかしBurst ApartはPR向けのバイオグラフィーとArcade Fireを先駆者とした口コミの成功への熱望を発しているにもかかわらず、アルバム全体を荒廃させるほどの雅量と、表現にとんだ明瞭性でつながっている。


リードシングルの"Parentheses"を聞いただけでは彼らの手腕は量れなかった。かなりアルバムの色からそれていた。レディオヘッドのBPMが早くなったバージョンの"Climbing Up the Walls"に聞こえたし、ごちゃごちゃした電子音のパーカションやきめ細かいピアノの波紋が、誠実にMo' WaxとWarpの感覚をもったOK Computer後、Kid A前のオルタナロックソングの構造を彷彿とさせた。しかし、攻撃的なSilbermanのファルセットと古臭いディストーションが効いたギターが全体の異常な性質を体現しているし、実際Burst ApartHospiceをひっくり返したような作品と見る事も出来る。つまり、前は長い落ち着いたホワイトノイズが感情の爆発につながっていたが、今回Burst Apartではそれが我慢強く豪華なダウンテンポの調子に流れていき、かなりシリアスなロマンティックな騒音を隠している。

このような熟練した夢日記的な解釈は"毎晩俺の歯が抜けていく(Every Night My Teeth Are Falling Out)"というタイトルからもわかる--歯が抜けるというのは一般的な性的不満の兆候だ。だが結局、Burst Apartは"I Don't Want Love"という曲で始まる。過去、感情に敏感になるしかなかったかのような歌い手が送る、心を打つ二日酔いに苦しむ男の叫びの歌だ。この曲の輝かしいメロディは少なくともポップとして聞こえるのだが、"Parentheses"や“Every Night"の白い拳でなんとか正常を保ち,性行為が共通の自爆行為だとするような風体はThe Walkmenの“The Rat"と同じ蚊帳の中から生まれた産物である。

Burst Apartは侘しく、夜を感じさせる雰囲気を持っている。死に這いつくばるおどろおどろしい曲調が予感できる"No Widows"は乗り物事故への恐怖心を歌っているし、短い光の瞬きのようなものがゴージャスで呪術的なアルバムの目玉曲、"Rolled Together"で顕著になる。この曲のブラッシングドラムや澄んだギターの音はSigur RosのAgaetis Byrjunを研究し尽くしたかのようだ。変わって、ほとんどビートが無い優しい"Hounds"や"Corsicana"のようなバラッドはThe Antlers独特のサウンドであり、聞くのが痛々しいほど綺麗だ。Silbermanの憂鬱な歌詞があったにしても、無重力なシンセ音とつぶやくような歌い声をリスナーは簡単に楽しむ事ができるし、高揚感まで覚えるのだ。

しかし、ただの一曲だけでBurst Apartの失策がひどすぎるものになってしまったのは残念でならない。このようなアルバムにみんなが立ち止まって聞き入ってしまうパワーバラッドを求めてはいないのだけれど、"Putting the Dog to Sleep"でまさかやってしまっているのだ。必要も無くドラマティックな歌唱や、Doo-Wop調の曲進行は凝りすぎていて、適当な最終曲というよりは、カラオケの最後の締めという感じなのだ。何はともあれ、"Putting the Dog to Sleep"のおかげでThe AntlersがBurst Apartというアルバムが手に汗握るバンドの過去話ではなく、グループとしての成長の物語であるとうまく示すことが出来ている。Hospiceの生々しいパワーはリスナーにあまり物語を想像する余地を与えなかったし、胸をぐっと打たれるか全くそうでないか、いわゆる聞き手を選ぶ作品だった。The AntlersはBurst Apartを通して君の手を繋いでいてはくれない。これによってアルバムは必然的にリスナーの中で成長していく作品になるが、いつも側に居てくれはしない。このアルバムが君自身のしどろもどろで孤独な未来をどう選択させてくれるか、というときにさらに影響力を発するのだ。


原文:http://pitchfork.com/reviews/albums/15411-burst-apart/



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