2011年5月8日日曜日

Fleet Foxes/ Helplessness Blues'



Fleet Foxes/ Helplessness Blues

8.8


Fleet Foxesのごまかさない、かつ観客を喜ばせようとする、率直さが彼らが急速に注目された理由だろう。2008年にリリースされたSun Giant EPとバンド名をタイトルにしたデビューアルバムは魅力的なメロディーや喚起的な歌詞、そして幅広いリスナーにアピールするようにデザインされたハーモニーで満ちあふれていた。彼らのポジティブなフォークロックは「クール」の一言で表す事が出来ない。しかしそこがポイントなのだ。彼らのサウンドは、感じがいい人なつっこさがあり、うぬぼれや見せかけが足りてない。彼らの音楽への愛情表現(そして作曲)は3年前とても新しく聞こえたし、こういうものは古くならない。それでも必然的に雲がかかってくる。

バンドの新しいレコード、Helplessness Bluesは彼らの黄金色のサウンドに陰が加えられ、もっと暗くて不確かなものになった。この音の変化はFleet Foxesがアルバム制作の間経験した騒然とした旅の様子が反映されている。2009年の終わり頃、Fleet Foxesは一枚のアルバムが出来るほどの曲が完成していたが、ほとんどのトラックはミックス作業の前にポシャになった。この困難な創作作業はバンドのメンバー全員、特に作詞作曲を担当しているRobin Pecknoldに悪く影響した。彼はその時Pitchforkにこう語っている。「去年は何をどう書いていいかわからないまま、本当にがんばって創作作業をしていたんだよ。」

結果、バンドの根気強さは功を成した。Helplessness Bluesは前に比べて深く、さらに複雑に入り組んでいて、商業的成功を収めたデビューに負けない素晴らしいアルバムになった。プロデューサーは再びPhil Ekと組み、バンドが伸び伸びと呼吸が出来るように多くの空間がある、まるで洞窟を連想させるサウンドスケープを造り上げた。このアルバムの長くて挿話的なカットは音色に人を不安にさせる変化を含んでいる。例えば "The Plains/Bitter Dancer"という曲はZombiesのもっと内省的な時代を想起させるようなひょろひょろとしたサイケデリックなフォークサウンドで始まるのだが、短いポーズのあとにFleet Foxesの今頃ほとんどトレードマークにしてしまったギャングの暴発みたいなコーラスが突然鳴り始める。また、短い曲はまるで思考の最中で終わってしまうように感じられる。つまり、がちゃがちゃと陽気な”Battery Kinzie"は突然終わってしまうが、"Sim Sala Bim"の重たくかき鳴らされるラーガはまるで切れた弦のようにさっさと繰り広げられる。この緊張と平穏が繰り広げられる様子はバンドにとって初めての試みであり、アルバムに強烈な、以前の二つの陽気な作品を静かに対比するかのような不穏を加えている。


Fleet Foxesで流れ出たバンドの美しいハーモニーはここではあまり聴く事ができないが、Pecknoldがよりクリアに歌声や歌詞を聴かせる主役としての役割を与え、各曲を飾り立てる役割を大きく果たしている。彼は最初は印象派のソングライターとして現れたのだが、それからより力強く、描写的な作曲家に成長した。彼の作曲はまるで男がスーツケースの掛け金やペニーが投げ込まれた噴水でマッチをするような男のイメージを鮮やかに思い起こさせる。彼は自身の個人的なパズルを解こうと時間を費やした。人生の意味を深く考え、Helplessness Blues創作作業中もっとも大変だった時期に五年間付き合った彼女と破局したことを瞑想したりした。

このアルバムは過去と決別し、現在と対峙する彼の決意が表れている。アルバム中何回かPecknoldは攻撃的な声を効かせる。八分にわたる破壊の冒険譚 "The Shrine/An Argument”では微かにひび割れ、ほろにがい"Lorelai"では痛々しさを露にしている。しかし暖かみは消えていない。アルバムの一番親密な曲、"Someone You Admire"で彼は矛盾した愛し破壊する衝動について思考する。二つのハーモニーとともにギターはやわらかくつま弾かれる。


またPecknoldはもっと普遍的な問題を題材としている。たとえば”Montezuma"の印象的なアルバムのオープニング曲では、「ほら僕いま自分の母や父が娘を授かった時よりも年を取っただろう。それで僕の事何が分かると思う?」彼はレコードを通し自分の成功の度合が一体何をもたらすのか、と苦悩する。彼が質問に質問を繰り返し続けた答えがアルバムのタイトル名にもなった"Helplessness Blues"にある。ここで、彼は牧歌的なイメージから身を引き、新しく生まれ変った自分を把握しようと躍起になる前の、以前の素朴だった暮らしを望んでいる。「いつかあの映画の男のように俺はなるんだろう。」と、歌の最後で宣言するのだ。

Helplessness Bluesは分析的で詮索好きな衒いがあるが、自堕落に陥ってはいない。混沌の中で、このレコードはバンドが多くの人々が恋に落ちたFleet Foxesの要素を保ちつつ、バンドの触れ幅の大きさやリスクを恐れぬ挑戦心を見せてくれた。もう一度言うが、Fleet Foxesがスペシャルな一番の理由は強い思いやりの感性があるからだろう。最近アメリカインディーズのノスタルジアへ現実逃避はたくさん見られたけれども、Robin Pecknoldは後退したりしない。彼は世界に自分の居場所が無いと感じながらも、不確かな事に立ち向かっている。それって僕らの多くが共感できる事ではないだろうか?


原文:http://pitchfork.com/reviews/albums/15363-helplessness-blues/




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